運送会社の事故免責20万円は違法か|自己負担の上限額と労務対策

/ ハコプロ編集部

運送会社の事故免責20万円は違法か|自己負担の上限額と労務対策

社用のトラックで事故を起こしてしまった際、運送会社から「免責金として20万円を負担してもらう」と告げられ、戸惑うドライバーは少なくありません。会社の指示にそのまま従うべきなのか、それとも法律上おかしいのか判断がつかないまま、給与から天引きされてしまうケースも見受けられます。この記事では、事故の免責金20万円という慣習の背景と、労働基準法や判例に基づく負担の妥当なライン、そして運送会社側が労務管理として整えておくべき体制を、実務の視点から解説します。

「運送会社の事故免責20万円」が指しているもの

求人サイトの口コミや掲示板で頻繁に見かける「事故免責20万円」という表現は、一つの法制度を指しているわけではありません。多くの場合、会社が加入する自動車保険の免責金額(自己負担額)を、事故を起こした従業員に一部あるいは全額請求する社内ルールを指しています。まずは、混同されやすい二つの「免責」を切り分けて整理します。

自動車保険の「免責金額」と従業員の「自己負担」の違い

自動車保険における免責金額とは、保険会社が保険金を支払う際に契約者(この場合は運送会社)が自ら負担する部分を指します。免責金額を10万円や20万円に設定しておくと保険料を抑えられるため、多くの運送会社がこの仕組みを採用しています。免責金額そのものは会社と保険会社の契約条件であり、従業員個人の負担義務を直接定めたものではありません。ところが実務上は、この免責金額をそのままドライバーに請求する会社が少なくなく、両者が混同されて語られています。

なぜ「20万円」という金額が独り歩きしているのか

20万円という数字がよく挙がるのは、対物・車両保険の免責金額として20万円前後を設定する運送会社が多いためです。加えて、修理費用が数十万円規模になりやすい中型・大型トラックの事故では、一定額を従業員に求めなければ保険料負担や修理コストが経営を圧迫するという事情もあります。ただし、20万円という金額そのものに法律上の根拠があるわけではなく、あくまで各社が独自に定めた社内ルールにすぎない点は押さえておく必要があります。

事故費用を従業員に負担させることは法律上どこまで許されるのか

従業員に事故費用を負担させる行為そのものが直ちに違法というわけではありません。ただし労働基準法にはいくつかの制約があり、会社が無制限に費用を請求できるわけでもありません。ここでは根拠となる条文と、実務上の判断基準となった最高裁判例を整理します。

労働基準法第16条が禁止しているのは「賠償額の予定」

労働基準法第16条は、労働契約の不履行について違約金を定めたり、あらかじめ損害賠償額を予定する契約を結んだりすることを禁止しています。つまり「事故を起こしたら一律20万円を支払う」という取り決めを入社時の契約書に盛り込むことは、この条文に抵触するおそれがあります。一方で、実際に生じた損害について事後的に相当な範囲で賠償を求めること自体は、直ちに違法とはされていません。

最高裁判例が示す「損害の公平な分担」という考え方

会社が従業員に対して求償できる範囲については、最高裁判所昭和51年7月8日判決(いわゆる茨石事件)が重要な判断枠組みを示しています。この判決は、会社が事業活動によって利益を得ている以上それに伴うリスクの一部は会社自身が負担すべきであるとし、従業員個人への請求は損害の公平な分担の見地から相当と認められる限度にとどまるべきだと判断しました。実務上は、故意や重大な過失がない限り、損害額の全額を従業員一人に負わせる請求は認められにくいとされています。

給与から天引きする場合に必要な手続き

免責金や修理費相当額を給与から天引きする場合には、労働基準法第24条の賃金全額払いの原則にも注意が必要です。原則として賃金は全額を労働者に支払わなければならず、控除を行うには労使協定の締結や就業規則への明記など一定の手続きが求められます。この手続きを踏まずに一方的に天引きを行うと、たとえ会社側に一定の請求権があったとしても、賃金支払いの方法として問題視される可能性があります。

実際にどの程度の金額を自己負担しているのか

運送業のトラック

求人相談や現場の声を見ていくと、事故の種類や過失の程度によって、ドライバーが実際に負担する金額には大きな幅があることが分かります。ここでは代表的な三つのケースに分けて整理します。

単独事故・自損事故で車両を破損させた場合

駐車場での接触や後退時の当て逃げなど、単独の物損事故では、修理費用のうち数万円から10万円程度を負担させる運送会社が多い印象です。過失の程度が明らかで、かつ会社の車両管理体制に大きな問題がなかったと判断される場合は、比較的高めの割合で従業員負担が求められる傾向にあります。

貨物・積荷を破損させた場合の弁償

荷崩れや荷役ミスによって積荷を破損させてしまった場合は、荷主への損害賠償を会社がまず負担し、その一部を従業員に求償する形が一般的です。荷物の価値によって金額の幅は大きく、数千円で済むケースもあれば、精密機器や高額商材の破損では会社の請求額自体が20万円を超えることもあります。荷主との契約内容や保険の付保状況によって対応が変わるため、一律の相場を語ることは難しいのが実情です。

人身事故・死亡事故を起こしてしまった場合

対人事故や死亡事故に発展した場合、話はドライバー個人の自己負担にとどまりません。運送会社自身が、貨物自動車運送事業法に基づく行政処分の対象となり、事業停止や許可の取消しといった重い処分を受ける可能性があります。遺族への損害賠償は基本的に会社が加入する任意保険で対応しますが、飲酒運転や著しい安全運転義務違反など悪質性が高いと判断される場合は、会社の求償が高額になったり、ドライバー自身が刑事責任を問われたりすることもあります。事故の重大性によって、負担の性質そのものが変わってくる点を理解しておく必要があります。

免責ルールを巡るトラブルを防ぐための労務管理

免責金の負担をめぐるトラブルの多くは、金額そのものよりも「事前に何も説明されていなかった」という不透明さから生じています。運送会社側が労務管理として整えておきたいポイントを、三つに絞って紹介します。

就業規則・労使協定へ免責基準を明文化する

どのような事故の場合に、どの範囲までドライバーに費用を求めるのか、あらかじめ就業規則や労使協定に定めておくことが基本になります。曖昧な口頭ルールのまま運用すると、事故が起きるたびに個別交渉となり、ドライバー側の不信感につながります。

  • 免責金を請求する事故の類型(物損・貨物・人身の別)
  • 過失割合に応じた負担上限額の目安
  • 給与天引きを行う場合の労使協定の有無

無事故手当など前向きな仕組みとセットで設計する

負担のルールだけを厳しくすると、ドライバーの離職につながりかねません。無事故・無違反を継続した月に手当を支給するなど、安全運転そのものにインセンティブを設ける仕組みとあわせて設計すると、免責ルールへの納得感も高まりやすくなります。

ドライブレコーダーで過失割合を客観的に把握する

免責金の請求額をめぐる争いの多くは、過失割合の認識のずれから生まれます。ドライブレコーダーの映像を確認できる体制を整えておけば、会社側もドライバー側も感情論ではなく事実に基づいて話し合うことができ、無用なトラブルを避けやすくなります。

労務管理の透明性が、ドライバーに選ばれる運送会社をつくる

トラックの車列

事故時の負担ルールを明確にすることは、単なるリスク管理にとどまらず、ドライバーが安心して働ける環境づくりの一部でもあります。多重下請け構造やドライバー不足が指摘される運送業界において、労務管理の透明性は採用力や荷主からの信頼にも直結し始めています。

運送会社検索サイト「ハコプロ」は、株式会社LIGOが運営し、掲載運送会社数6万件、営業所数8.5万件という規模を持つサービスです。掲載料・登録料は一切かからず、ドライバーの年齢や社歴、仕事にかける想いを紹介する「ドライバー名鑑」など、会社の労務管理や働き方を可視化できる機能を備えています。免責ルールの整備をはじめとした労務管理の取り組みを社外に発信することは、荷主企業との直接契約や、安全運転を大切にするドライバーの採用にもつながります。

自社の免責ルールや労務管理の体制を見直したい、あるいはその取り組みを荷主やドライバーに向けて発信したいとお考えの運送会社の方は、ハコブログを運営するハコプロへの掲載や相談を検討してみてはいかがでしょうか。

ハコプロとは?(運送会社向け)

お問い合わせはこちらから

関連記事